2005年 02月 11日
◆評論家の瀬戸川猛資氏が肝臓ガンで亡くなってから、もうすぐ6年になる。享年50歳、あまりにはやすぎる死だった。活字と映画の双方において大きな影響をうけた評論家兼水先案内人であったので、いまだに惜しまれてならない。健在であれば、まちがいなくエンターティメント評論の分野において小林信彦的な存在になり得る人であったろうと思う。だから忘れぬうちにこの日記でも書きとめておくこととしたい。 ◆ミステリマガジンで「夜明けの睡魔~名作巡礼」の連載が開始されたのは1980年、これは目からうろこの画期的なミステリ評論だった。 ・ロス・マクドナルドは本格ミステリ作家である。 ・ホーガンのSF「星を継ぐもの」は本格ミステリの快作である。 ・スタンリイ・エリンに異色作家のレッテルを貼るのはまちがいである。 ・ほとんどSF的にクレージーなヴァン・ダインの「僧正殺人事件」 ……いま振りかえれば、著者が30歳そこそこ時点での評論であり、怖いもの知らずの切り込みであったろうが、当時はそれがとても小気味よく感じられたものである。いわば新鮮なショック感。その10年後には同じミステリ・マガジンで「夢想の研究」を連載している。本(活字)と映画(映像)をリンクさせた評論集でこちらも斬新な試みであった。「12人の怒れる男」の解読なんかは絶品だと思う。司馬遼太郎唯一のミステリ小説「豚と薔薇」を紹介したりで、よくこんな全集未収録の珍品を発掘するなといったところもあった。また、「鉄欠乏性の貧血」で入院したことなども連載中に明らかにしている。この時点から病魔が忍び寄っていたのだろうが、あるいは当人はもう全部承知していたのかもしれない。 上記2作は早川書房から単行本になったが、現在はなぜか東京創元社の文庫になっている。今でも多分入手できるだろう(ただし文庫本にしては少々値が高い)。 その後も映画やミステリの評論で独特の切れ味をみせていたが、ミステリ・マガジンにおける座談会の写真が異様に黒い顔色でどうもおかしいなと思っていたところに、逝去の記事であった。 ◆瀬戸川氏の業績でなにより特筆すべきことは、映画評論家の双葉十三郎がスクリーン誌に連載した「ぼくの採点表」を全5巻の単行本にまとめあげたことである(その後キネマ旬報社が1巻追加して現在は全6巻)。このためにトパーズ・プレスという出版社も立ち上げている。双葉氏の採点に加えて製作年次、原題、監督、出演者、あらすじ紹介まであるので、かなり値ははるが、映画ファンにとってはかなり重宝する本である。ちなみに双葉氏の採点☆が3個以上の作品であれば、観ても時間の無駄にはならない。 若すぎる死ではあったが、かくも素晴らしい「作品」を遺していったこと、ときにうらやましく感じることもある。
by chaotzu
| 2005-02-11 23:16
| 読書
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