2005年 04月 17日
◆1997年刊、角川文庫 後藤由季子訳。歓喜の島とはマンハッタン島のことで、1958年のクリスマス・イヴから大晦日まで8日間のドラマである。プロットが錯綜してなかなか筋を追いにくいところもあるが、小説の興趣としては、1958年末におけるニューヨークの風俗にある。もう半世紀近い昔であるが、アメリカがかつてしあわせであった時代のその絶頂期である。 朝鮮戦争は過去になりキューバ革命やベトナム戦争は先のこと。黒人差別もまだ直視せずにすむ。とにかくつかのまの平和な時代だった。作中に出てくるのは、フレッド・アステア、レニー・ブルース、ミュージカルでは「ウエストサイド物語」、ヤンキースのマントルとマリス、アメフトではコルツとジャイアンツの名試合(これだけは知らん)……。カポーティの「ティフアニーで朝食を」もこの年だろう。そのほかセントラル・パークの馬車にジャズ・ミュージシャンを後援する富豪の「伯爵」夫人、だからもうストーリーなんかどうでもいいかもしれない。 ◆各章の見出しはジャズのスタンダード・ナンバーである。プロローグが「なつかしのストックホルム」ときて、あと、「ブルー・モンク」「ホワッツ・ニュー」「イル・ウィンド」「スクラップル・フロム・ジ・アップル」といった具合。物書きにとって、ジャズのナンバーをタイトルに使うのはきっと気持ちいいだろうなと思う。自分もやってみたいが、しろうと日記で真似するととんだお笑いぐさになる(笑)。 ◆いちおう、ジョン・F・ケネディ夫妻とマリリン・モンローであろうとおぼしき人物をめぐるあれこれの「謀略」がメインです。 後に大統領に登りつめるケネデイ、人を惹きつける魅力たっぷりであるが、セックス中毒の女たらしでもある。ジャクリーン夫人がケネデイ家を離脱するのも無理からぬほどのゲス野郎。いっぽう、弟のロバート・ケネディ、この小説では冷徹な参謀格で兄貴の醜聞もみ消しに奔走している。政治家の女好きは洋の東西問わずなのか。
by chaotzu
| 2005-04-17 22:13
| 読書
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