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マイ・ラスト・ソング

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2005年 04月 26日

【読書】 後藤正治「ベラ・チャスラフスカ 最も美しく」

◆ある年代以上の日本人にとって、1964年の東京オリンピックは特別に感慨深い思い出である。とりわけベラ・チャスラフスカ(チェコスロヴァキア=当時)は、単なる体操の選手を超えた存在だったように思う。こどもの目にも成熟した女性のかっこよさがやきつけられたものである。【読書】 後藤正治「ベラ・チャスラフスカ 最も美しく」_b0036803_23121013.jpg
 本書はそのチャスラフスカ選手を軸に、冷戦のはざ間で歴史に翻弄されるチェコの人々、そして対立国であった旧ソ連の女子体操選手やルーマニアのコマネチ選手たちの有為転変を綴ったノンフィクションである。ただし、残念なことに目玉のチャスラフスカへの直接取材はできていない。事情やむを得ないことだろうが、そのために群像ドラマの色彩が濃くなっている。
◆ベラ・チャスラフスカ、現在63歳。1968年6月、「プラハの春」を象徴する二千語宣言に賛成署名、その2ヶ月後にワルシャワ条約軍がチェコを侵犯、署名を撤回せず以後21年間の苦難がつづく。東京五輪陸上1500M銀メダリストの夫も離れていく。
「(あなたはなぜ二千語宣言への署名を撤回しなかったのですか)→節義のために。それが正しいとする気持ちはその後も変らなかったから。」
「私は自分のなかにある気持ちに忠実にありたいと思ってきました。人は自分の信条をどんなにはやく裏切ってしまうものであるか、政治体制は人の心をどんなにたやすく折り曲げることが出来るかを知りました。プラハの春が過ぎ去って以降も、私と以前同じようにつきあって友好関係を保持していってくれた人は片手の指を数えるに過ぎません」
 そして、身内の「不幸な事件」を契機に重度のうつ病を発症し、表舞台から消えていく。しかし、彼女の栄光とその後の迫害、復活そして失意と連なる波乱の人生には胸をうたれるものがある。
「人生は大きな苦しみである。ただ、私はいまも少しだけ信じている。いつかすべてが良きものとなるときがくることを。そして小さな幸せを招いてくれることを」
◆ナタリア・クチンスカヤ、現在55歳。メキシコ五輪当時、旧ソ連のトップ選手だった。おそらく美人度では歴代ナンバー・ワン、明るい人柄とあいまって、ソ連は不人気でもこの選手だけは人気バツグン。1991年から94年まで、体操コーチで大阪・泉佐野に滞在していたそうだ。現在は夫婦でアメリカに移住しシカゴ郊外に住んでいる。旧ソ連の解体など大波は受けたが、チャスラフスカとは対照的な柔構造の人生。
◆ナディア・コマネチ、現在44歳。モントリオール五輪で10点満点を連発した史上ナンバーワンの完璧な体操選手。この人もルーマニア革命の直前にアメリカに亡命、アメリカ人の体操コーチと結ばれ、オクラホマ州ノーマンに住んでいる。チャウシェスク息子との風聞で叩かれるなど、この人も歴史に翻弄されてきた。

by chaotzu | 2005-04-26 23:16 | 読書


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