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マイ・ラスト・ソング

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2005年 05月 26日

【読書】 井上ひさし「不忠臣蔵」 かくも長き呪縛の不思議

◆集英社文庫、単行本初刊1985年12月。
 松坂といえば西武の松坂だけではない、本所松坂町、いわずとしれた忠臣蔵の被害者、吉良上野介屋敷跡がある。一度行ってみたが、公園みたいなただの空き地だった。高輪の泉岳寺にも行ったことがある。だからといって、別段赤穂浪士のファンということではない。だいいち、47義士ともて囃されているが集団強殺犯そのものである。いまならカルト団体で破防法適用だ(笑)。浅野の殿様も経営者とみれば無能かつ無責任きわまりない。一時の勘気による不始末のあげく部下を路頭に放り出した。まあ同情の余地なし。
 だけど、忠臣蔵はいまでも。日本エンターティメント史上最高の傑作とされている。なぜ、かくも奇天烈な倒錯話が、元禄以降の日本人にやんやの喝采だったのか。そこに興味がある。だから両国にも高輪にも行ったが、実のところいまだに理解できないままだ。
【読書】 井上ひさし「不忠臣蔵」 かくも長き呪縛の不思議_b0036803_0121569.jpg◆井上ひさしによる本小説、主人公は討ち入りに参加しなかった赤穂浪士たちである。だから不忠臣蔵。もともと松の廊下事件のとき、赤穂藩の家臣は300人ほどいたらしい。だから討ち入りに参加したのは六分の一もいない少数派である。なぜそんな少数派のレアケースが、日本人の行動の手本みたいに語られるのか、特殊な例をもって一般論を言っているようなところに危険さはないのか、それが執筆動機らしい。なるほど、たしかにそれに類した事例は他にもある。われわれ日本人はどうも忠臣蔵に洗脳されすぎているんじゃないだろうか。
◆作者が小説中で綴る、不義士の言い訳は、「万一失敗の場合に備えた第二陣で残ったのだ」「吉良屋敷偵察の目くらましのための放火実行部隊だった」「必死の外交努力を無にするバカ殿に愛想が尽きたのだ」……などいろいろ。もちろんほんとうかどうかは分からない。なにより作り事であって、それこそ虚実皮膜の間である。だけど47義士のドラマと同様、討ち入りに参加しなかった浪士についても、それぞれのドラマはたしかにあったのだろう。そしてそちらのほうこそ、日本人多数の物語なのである。

by chaotzu | 2005-05-26 23:59 | 読書


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