2005年 08月 10日

【NHK・BS】 「馬鹿まるだし」 ご新造さん、あっしは汚れておりやす

◆「無法松の一生」といえば超有名物語でござんす。いまさら説明もやぼでありましょうが、小倉の無教養な車夫富島松五郎が亡くなりやした後で、吉岡大尉夫人の息子名義の貯金通帳が出てきやす。あっしにとっちゃあ、もうたまらない場面でさあ。日本人ならたいていそうでやしょう。なんちゅうか、胸がたまらなくせつなくなりやすな。松五郎の奴あ不器用なんでさあ、そいつがプ、プラスチックな愛ちゅうやつでさあ、そんで、ぼんへの気持ち、ありゃ、父親そのものってやつだ。ちくしょう、これが泣かずにいられるかってんだ、なに古くさい、それがどうしたってんだよ。あっしはねえ、「忠臣蔵」も好きだが「無法松」もいっぱい好きだねえ。
そいから「寅さん」も好きなんでやすよ、もう大ファンでござんす。なんてったって松五郎と似てやすからねえ、だから「寅さん」みるといつも泣けてきやすな。ぐっときちゃうんでさあ。え、そんなのダレでも知ってるって、いやこりゃどうも失礼しやした。いやね、きょうみた映画がですな、ちょうど「無法松」と「寅さん」の橋渡しをしてるんでやす。なかなか泣けやしたねえ。b0036803_22233042.jpg

◆1964年松竹映画、NHKBSの録画である。なんといってもタイトルが秀逸、まるでオレのことみたいじゃん(マジ)。
さて、戦後まもない頃、瀬戸内海のとある町にふらっとやってきたシベリア帰りのハナ肇、ひょんなことから寺男になり、その町に住み着くようになる。お寺の嫁である桑野みゆきの夫は戦地で行方不明、シベリア抑留の情報もある。ハナ肇はそんな桑野みゆきにひそかな思慕をよせており、ご新造さんに喜んでもらうことが、何よりいちばんの行動原理だ。力もちであるが格別に喧嘩が強いわけでなく、特段の主義主張があるわけでもない、ただただ、ご新造さんにほめてもらえるような人助けをしたい、その一心だけ。そんな善良な「馬鹿まるだし」人間が、町の有力者等町民の思惑で人気者になったり逆に邪険にされたりする。
煙突男(桜井センリ)の騒動から町の工場争議に介入して工員たちのヒーローになる、インターナショナルで気勢をあげようとする工員のなかで、ひとり人生劇場を唄い出して、やがてみんな唱和するシーンは傑作である。
♪たてえ、飢えたるものよ~♪やると思えば、どこまでやるさあ
~♪おれも生きたや仁吉のように 義理と人情のこの世界

◆脱走囚が有力者の娘をさらって山にたてこもった。ダイナマイトで威嚇するので警察はなかなか救援しようとしない。しびれを切らせた有力者連中、こんどは一転ハナ肇を持ち上げ、ご新造さんの「頼み」まででっち上げて、救出に差し向けようとする。ご新造さんが駆けつけて思いとどまらせようとする。
“あっしは男一匹、頼まれたら後にひけねえんでござんす”
“馬鹿ねえ”
“バカ……”
茫然自失となったハナ肇、特攻突撃してしまう。さてどうなるか。
ご新造さんとの別れのシーンが名シーンであり、ついホロリとさせられる。
ナレーターの声“親分一世一代の愛の告白はけっして空振りじゃなかったんだ”
いや、ほんとにそうだ。ハナ肇にとっても一世一代の主演作だったかもしれない。
もっと評価されてしかるべき作品じゃないかな。

◆ところが、ラストに至って突然人気者の植木等が登場するのだ。それまでナレーターだったことは承知していたが、実物まで出るとはね、お寺の坊さん役だからこれ以上のはまり役はないのだが。
このひと独特の植木節ウッシッシッは、やはり無敵である。とにかくオカシくて面白い。しかし、その分、ハナ肇の熱演を薄めてしまったような気がせぬでもない。おまけに植木等はノークレジットなのである。いわば不意打ちみたいな出演である。

◆人気役者がそこそこセリフがある役をやって、おまけにナレーターもやっているというのに、全然出演者名でクレジットされない映画ってある? 外国映画でいうカメオ出演のようなちょい役ならばあるかもしれないが、日本映画でこういうのははじめてだなあ。ちょい役で出てくる藤山寛美と渥美清はちゃんと「特別出演」として紹介されているのにである。
おそらくは、植木等が東宝系で売り出していたので、松竹が遠慮したこと、そしてクレージーの所属するワタナベ・プロが、メンバーのばら売り政策を採っていたため、人気者の共演をアピールすることに大してこだわらなかった、まあそんなところじゃないか(推測)。
だけど、植木等まで駆りださなくっても十分傑作になりえたと思う。実に惜しい。
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by chaotzu | 2005-08-10 22:28 | 日本映画


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