2005年 08月 12日

【ビデオ】 「軍閥」 東条英機と竹槍事件

◆1970年東宝映画。激動の昭和史シリーズ第2作である。「日本のいちばん長い日」が敗戦の秘話であるとしたら、本作品は太平洋戦争開戦までに至るてん末とその後の惨状を描く。
メインキャラは小林桂樹の演じる東条英機、そして加山雄三の新聞記者である。
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◆2・26事件からはじまってほとんど史実に沿って進む。あいまに悲惨な実写フィルムが挿入されるが、戦争映画というよりはむしろ政治ドラマの色彩が強い。政府内部の右往左往や陸海軍の反目など定番ネタも盛り込まれるが、なんといっても見どころは、「竹槍事件」のてん末で、戦時体制化におけるマスコミのあり方を真正面からとりあげたことだろう。

◆東条首相と東京日日新聞社(現毎日新聞)との確執であるが、ガダルカナル島の悲惨な敗北が発端になる。ミッドウェー海戦でも「赫々たる成果」と嘘八百の大本営発表垂れ流しであったが、こんどは「退却」を「転進」にして国民を誤魔化そうとする。海軍報道班員の加山記者は退却の現場に居合わせたことから、大本営発表の欺瞞に気がつく。
帰社次第、真実の報道を進言、とうとう「勝利が滅亡か、戦局はここまできた」、「竹槍では間に合わぬ、飛行機だ。海洋航空機だ」の記事掲載にこぎつける(昭和19年2月)。海軍の言い分を代弁した側面もあったが、常識的な記事である。ところが、日ごろ竹槍精神を鼓吹する東条首相が激怒し、異例の37歳兵役免除者の二等兵召集となる。危険な外地に追いやるという事実上死刑判決同然の「懲罰召集」である。さらに辻褄あわせのため大正生まれの兵役免除者250名も追加召集するというえげつなさ。

◆東条内閣の言論統制、憲兵政治はエスカレートするいっぽうで、中央公論の谷崎潤一郎「細雪」も連載禁止処分をうける。映画ではとりあげられないが、当時の「懲罰召集」はこれだけではない。逓信省松前局長(後の東海大総長)の二等兵召集は有名な事件であるし、政敵中野正剛取調べがらみで現役検事召集事件もある。また、この逆に有力者子弟の召集に手心を加えたことも云われている。この他、異論を唱える幕僚の外地への左遷人事も再三断行、ちなみに当時の陸軍次官が陸軍三バカのひとり富永恭次であり、イエスマンで周りを固めていたわけである。
こうみると戦時下とはいえ、小心陰湿な独裁者の印象がどうしても拭えない。厳しい見方をすれば、真面目さと忠勤をかわれてせいぜいヒラ取締役が出世限度の人物である。生真面目ではあるが、後に石原莞爾にボロクソに云われるがごとく、全軍の将たる風格はとてもうかがえないのだ。
ところが、この程度の人物が首相&陸軍相&軍需相&陸軍参謀総長と一身に権力を集中するに至るのであるから、当時の重臣や軍隊中枢にも問題があったのだろう。
東条英機ひとりに戦争責任を集中させるのは酷なことかもしれない。

◆竹槍事件そのものは、陸軍と海軍の対立が招いたことでもあり、加山雄三の記者は後に海軍の配慮でフィリピンに派遣されて生きながらえるが、巻添え召集された250名のおじさん新兵の大半はサイパン島で亡くなってしまう。
敗戦末期鹿児島の特攻基地に赴いた加山記者、特攻隊員の黒沢年男から激しく面罵される。
“日本中を好戦的にしたのは貴様達だ、何でも東条のせいにしているが貴様らに責任はないのか”
“勝ち戦ならば戦争はやってもいいのか”
“こんな国負けてしまえ、負けるためなら喜んで死んでやらあ”
いちばんのサワリであり、ここは映画のフィクションであるが、製作者側がいちばんいいたかったことだろう。なお脚本は社長シリーズの笠原良三である。正直見直しました。

◆加山雄三がメガネをかけてわざと男前をかくしている。そして小林桂樹が丸坊主丸メガネのヒゲ扮装で東条英機を演じる。山下清から聾唖者からそして社長シリーズの秘書までやるんだから、まことに俳優商売面白いだろうなと思う。もともと社長シリーズでも基本は真面目キャラの設定であるから、東条役もそう違和感はないのである。
もしも、のり平タイプが東条役をやったらどうだったろうか。もっぱら得意とする接待攻勢をアメリカにしかけたりするかもしれないな。真珠湾攻撃もハワイの料亭「攻撃」だったりする。そして
“ぱぁーっといきましょうよアメリカさん、ABCD包囲網なんか固いこといわないで”
とかいってたりするかもしれません。
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by chaotzu | 2005-08-12 22:48 | 日本映画


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