2005年 08月 26日
◆暴力団といっても、暴力団なる仕事があるわけではない。実際は表向きの仕事ももっている。あくまで影のオーナーであるが、土建業、廃棄物処理、貸金業……、もちろん役員に前科者はいないし、税金も払っている、資金洗浄も必要だ。末端の組員でもたいていは嫁はんになにか商売をやらせているだろう。目端がきかずに落ちぶれる奴は生活保護が商売になる。とにかく金づるは必要。儲かりそうなビジネスだとみればなんにでもクビを突っ込んでくる。介護ビジネスなども参入しているかもしれない。 それでも、暴力団が養豚業をやるってのはさすがに聞いたことない。 ◆1960年日活映画、アメリカ海軍基地がある横須賀を舞台に、チンピラヤクザとその恋人の苦い青春を描く。筋書き的にはそんな説明になるが、ブラックユーモア風の喜劇でもある。笑うに笑えない喜劇、ほかにも多様な見方ができるだろう。今村昌平監督のまぎれもない傑作。 タイトルの「豚と軍艦」、豚は日本人そして軍艦はアメリカの象徴とみることもできる。 経済的な存在感断トツの米軍基地と米兵に「従属」する日本人のこっけい哀れでいて、それでもなおしたたか懸命に生きるさまを描いている。 ◆三島雅夫の日森組長が日系二世の米軍軍属から、基地の残飯利権をもちかけられる。“あなたも実業家にならなくちゃ”にのせられた組長、早速強引な金集めで資金をこしらえて養豚業をはじめる。とはいっても豚の世話はチンピラの長門裕之に押し付けられており、兄貴分はダレも知らん顔だ。当のチンピラは早くボーナスをもらって恋人の吉村実子と暮らしたいと思っている。 その吉村実子宅、小さな食堂をやっているが、姉が米兵のオンリーさんで羽振りがいい。近所の婆さん(武智豊子)が羨ましがっている。母親(菅井きん)は妹もオンリーさんになってほしいみたいだ。“はやくアメちゃんのフレンドにならないのかねえ” 何も知らない弟妹も無邪気に声をそろえる。“ぼく、アメリカ人になりたい” とにかく、アメちゃんにふりまわされる日本人のやりきれない現実がつづく、殿山泰司演じる冷徹な中国人金貸し(元ギャング?)はそれを笑っているかのようだ、 ◆ラストに至って、溜まりこんだフラストレーションが爆発する。逆噴射のチンピラが機関銃を乱射、身勝手な親分や兄貴は逃げ惑う。そして大量のブタが大進撃だ。 いっぽう、吉村実子はオンリーさんを決然と拒否して家出する。横須賀駅前のオンリーさん志願サングラス日本人女性の群れを尻目に、ひとり逆方向を歩む。エンディンク゜の横須賀駅周辺の俯瞰シーンは素晴らしい。 ◆とにかく後年の映画に大きな影響を及ぼしている。いちばんは「仁義なき戦い」で、三島雅夫が演じる日森組長は山守組長の前身みたいであるし、タクシー屋のおっちゃん打本組長みたいな人物もでてくる。 ◆おすすめシーン 余命3日と聞いた丹波哲郎、ショックのあまり病院をとび出して彷徨する。それにしては元気すぎるぞ(笑)。電車に飛び込みを図るが挫けてしまう。その電車が通過した後に登場するのがこの映画のスポンサー企業である「日産生命」の沿線看板である。観客もここで笑ったことだろう。緊張と緩和の実践シーン。スポンサー様である生保の宣伝に自殺未遂場面をつかうとは、たしかにインパクトありすぎ(笑)。 その日産生命も既に破綻していまはない。 いっぽう、丹波哲郎の弟分である加藤武のはじけぶりがスゴい。流れ者ヤクザの死体の始末なんかは、とにかく目茶苦茶で(以下略)、兄貴分丹波哲郎の病気がこれで悪くなる。 そうそう、先述のタクシー屋のおっちゃんはこのひとがやっていた。本作とはうって変わった軟弱ぶりだった(笑)。 [追記](8/29) 深作欣二の助監督云々はすっかり勘違い、浦山桐郎と混同しておりました。 訂正しておきます。
by chaotzu
| 2005-08-26 22:33
| 日本映画
|
ファン申請 |
||