マイ・ラスト・ソング

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2005年 09月 05日

【DVD】「ジョゼと虎と魚たち」我々はまた孤独になる

◆フランソワーズ・サガン、18歳の処女作「悲しみよこんにちわ」で全世界にセンセーションをまきおこした早熟の女流作家。白水社から全集が出たりして、日本でも一時期かなりのブームに沸いた。だけど、近年は半分忘れられた作家みたいになっていたように思う。私も何作か読んだがあまり憶えていない。昨年ご本人がなくなり、そしてつい最近翻訳者の朝吹登水子氏が亡くなられたばかりで、自分的にはフェイド・アウトしていく作家の位置付けであった。
ところが思わぬところで巡りあうのである。サガンの小説が好きな身体障害者のひきこもり女の子のはなし、なかなか思いつけない発想だ。原作は田辺聖子である。
サガン=田辺聖子? うーん、これも盲点でした。

b0036803_2205126.jpg◆2003年日本映画(アスミック・エースほか)、題名から勝手に青春活劇みたいな内容を想像していたが全然ちがった、障害者をテーマにした映画である。
なんというか、変わったテイストがある。大阪が舞台のはずなのに、大阪らしい暑苦しい風景は出てこない、目をこらしてみたが、大阪のどこかさっぱり分からない。下肢麻痺の障害者がヒロインであるのに車椅子は出てこない。そもそもヒロインの生い立ち等よく分からない。

◆両足麻痺の池脇千鶴は祖母と二人暮し、祖母からは「壊れもの」視され、ほとんど家にこもりきり、本を読んで過ごしている。祖母が拾い集めた雑多な本を部屋に積み重ねており、月刊極道からSMキングまで何でもござれ、学校の勉強まで他人が捨てた教科書で自学した。お気に入りの小説はフランソワーズ・サガンの「一年ののち」、登場人物にあやかって、自分のことをジョゼと自称している。知識は全て読書で仕入れたものであり、現実の世界のことはあまり知らない。だからおばんくさいところと幼稚な部分が入り混じっている。

◆ふつうの大学生でオンナの子ともテキトーに遊んでいる妻夫木クンは、ひょんなことからジョゼと知り合い、ジョゼが作ってくれた出し巻き玉子に感激する。そしてイスから床にダイブする姿に強烈な印象を受ける。
紆余曲折あって一時途切れていたが、ジョゼのバアチャンの死を聞いて再訪すると、障害者の一人暮らしには健常者が思いもせぬ日常があった。
“隣のおっちゃんにオチチ触らして、ゴミ出し頼むねん”
”なんでアンタにうちのゴミ出し、ごじゃごじゃ云われなあかんねん”
“帰れ云われてはよ帰るような奴は、はよ帰れ(泣)”
やがて、ふたりはいっしょに暮らすようになる。ジョゼは初めて外の世界をいっぱい知る、動物園で虎をみた、海もみた。水族館はあいにく閉まっていたが、水族館みたいなラヴホテルに泊まった。若いふたりの黄金の日々、だけどいつまでもつづかないだろうことは、ジョゼ自身がなによりいちばん承知している。それがもの哀しい。

◆もうひとりオンナの子がからんでくる。女子大生の上野樹理、ツマブキくんのセックスフレンドによると、“ちょっと上目づかいで首斜め45度にして「相談したいことがあるの」”とオトコに近づく最強女、おまけに乳もデカいそうだ。
このとき17歳の樹理ちゃん、すごい役やったもんだ(笑)。
そして、この最強女がジョゼに嫉妬バリバリなのである。
“障害者のくせして私のカレ奪うなんて、正直アンタの「武器」うらやましいわ”
オイオイ福祉を専攻している女子大生がこんなこといっていいのかい(笑)。最強女の彼女にすれば、それまでは障害者=目下の気の毒な存在だったのだろう。すなわち紙の上だけの存在にすぎなかった。それに負けてしまうのだから怒りは半端ではない。
ジョゼも負けじと云い返す。
“ホントにそう思うんやったら、アンタも足切ってもろたらエエやん”
あとはふたりで平手打ちの応酬、後で分かるが樹理ちゃんはこれでダメージを受ける。この映画のハイライト・シーンである。

◆社会人なりたて健常者の青年と身障者の女の子の同棲、さてどうなるか。
女の子のほうは、電動車椅子で街中を走っている。ひきこもりからは完全に脱皮した。
オトコのほうは、人目をはばからず突然泣き崩れる。
障害のあるひと、特別に庇護されるものではなく、特別に気の毒がる必要もない、その前にあたりまえの人間としての存在がある。けっして「壊れもの」じゃない。いろいろ見方はあるかもしれないが、面白い映画だった。おじさんとしてはベッド・シーンがなければずっと良かったんだが、それじゃきれい事すぎるか。
なお、池脇千鶴が上野樹理より5歳も年上なんて知らなかった。芝居は上手いけど、童顔がこの娘にはつきまとうなあ。
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by chaotzu | 2005-09-05 22:12 | 日本映画


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