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マイ・ラスト・ソング

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2005年 09月 23日

【DVD】「活きる」 私達に借りがあるのだから生き抜きなさい

◆地球の歴史上これまで最大の殺戮者は?
いろいろ諸説あるだろうし、犠牲者の人数にしてもアバウトなところはある。まあその辺はおいといて乱暴な想像をつづけてみる。
筆頭はソ連(当時)のスターリン書記長、2000万人は粛清したと云われている。次いで中共の毛沢東主席が文化大革命で数百万~2000万人。あとはナチス・ドイツのヒトラー総統がユダヤ人のホロコーストで300~400万人、カンボジアのポル・ポトが300万人、アフリカ・ウガンダのアミン大統領が30万人ぐらいといわれている。
くどいようだが数字はだいたい、思い出すかぎりであるが、みんな20世紀の出来事である。
だが、これに餓死したひとも加えたらどうなるだろう。
その場合、いちばんは毛沢東、1950年代の大躍進政策で2000万人の餓死者をひきおこしたといわれている。一説によると、毛沢東はその政治家としての治世で6000万人の国民を死に追いやったのではないかといわれている。数字は大げさかもしれないが、ぶっちぎりのターミネーター・ナンバーワンであることは間違いない。乱世の英雄であったにせよ、平時となるとこれほど酷薄無能な人物はいない。北朝鮮の金一家などはまだ可愛いものである。
ところが、この毛沢東、国民に未曾有の災厄をもたらした張本人であるというのに、いまだに天安門広場に巨大な肖像画が掲げられ、建国の父として崇められている。つまるところ、当時の国民の相当数が毛沢東の煽動に熱狂したあげく殺戮等非道な行為の共犯者として荷担したからであろう。毛沢東を批判すれば、自分自身に唾を吐きかけることになってしまいかねない。それこそ国民が分裂しかねないので、当分の間、「救国の英雄」として祀り上げておくしかないということになる。歴史を粉飾したがるのはなにも日本だけではない(苦笑)。
さて、そんな毛沢東のデタラメ施策に翻弄された中国庶民の物語である。もう10年以上前の作品であるが、いまだに中国内では検閲不許可で上映されていない。

【DVD】「活きる」 私達に借りがあるのだから生き抜きなさい_b0036803_21302592.jpg◆1994年中国映画、チャン・イーモウとコン・リー、かつての実質夫婦コンビの作品には秀作が多いが、この作品にもずいぶん泣かされる。近頃は涙腺が緩んでいるからよけいそうだ。文革や大躍進に翻弄される庶民のありさまを淡々とときにユーモアも交えて描き出すが、それだけに中国の庶民を襲った痛々しい悲劇が胸をうつ。
福貴(グォ・ヨウ)と家珍(コン・リー)夫婦には子供が2人いたが、ひとり息子は大躍進運動のさなかに事故死、寝不足のまま集会に動員され、居眠りしたゆえの悲劇である。娘のほうは文革の混乱期に出産するが、ろくな医療も受けられず出血死してしまう。どちらも毛沢東政治の犠牲者なのである。それでも、この夫婦は明日を信じて生き抜いていく。

◆大躍進運動といってもいい加減なものである。家庭からナベカマの鉄製品を徴発して、自力で鉄を生産するぞと意気込むのはいいが、素人の原始的な製法ではお粗末な鉄塊しかできない。それでもこれで大砲の弾が3発できるぞという。さあ「台湾解放」だ、蒋介石の寝所に一発打ち込んでやる、便所にも一発打ち込んでやるとみんな意気盛んである。食生活の権利まで奪って台湾解放どころではないだろうに、そのつけはやがて確実に巡ってくる。
文革もデタラメである。娘が出産するというのに、医者は追放されている。子供みたいな紅衛兵の看護婦が病院を仕切っている。案の定急場ではうろたえる一方でとうとう娘を見殺しにしてしまう。

◆いつもながらの逞しい女性を演じたコン・リーもいいが、父親役のグォ・ヨウがなによりすばらしい。はっきり云ってどんくさいダメ親父であるゆえ、なおさら感情移入してしまう。子供が亡くなったことについても、無理矢理息子を集会にひっぱっていった自分が悪い、饅頭を7個も医者に食わせた自分が悪いと、もっぱら自責の念にかられている。おまけにお湯まで呑ませたから饅頭が7倍に膨れ上がって49個分だとくよくよしている。だけど、けっして、為政者に怒りをぶつけたりはしない。中国当局のチェックを意識した製作側の意図かもしれないが、結果的にそれが辛らつな権力者批判になるのである。

◆在りし日の父親と息子の会話
“いい子にしていれば餃子も肉も毎日食べられる。今はヒヨコのようなものだが、いつかはガチョウになる。ガチョウが大きくなり羊になる。羊の次は牛だ“
“牛の次は?”
“次は共産主義さ、毎日、餃子や肉が食えるようになるぞ”
何十年か後、孫のマントウと祖父母の会話
“このヒヨコが大きくなったら、鶏からガチョウになる。ガチョウは羊になって、羊は牛になる”
“牛の次は?”
“つぎはマントウが大きくなる番よ”
“大きくなったら牛に乗れる”
“牛ばかりじゃない。汽車や飛行機にも乗れる。その頃は今よりもっといい世の中だ”
なんという強烈な権力批判だろう。

by chaotzu | 2005-09-23 21:48 | 外国映画


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