マイ・ラスト・ソング

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2005年 10月 16日

【読書】「松本清張傑作短編コレクション」やっぱりセイチョーはオモシロイ

◆松本清張の小説再訪のきっかけとして、宮部みゆき責任編集と銘うった短編コレクション(上・中・下)を読んでみる。1年ほど前に出た文春文庫の企画本であるが、これがベラボーに面白い。読み出すとやめられない。
まずはっきりしたこと~短編(あるいは中篇)については、昔読んだ記憶をすっかり喪失していること、もうことごとく忘れとる(苦笑)。
b0036803_22225742.jpg「西郷札」って西南の役の戦後悲話だったのか、あるいは「カルネアデスの舟板」を読んで歴史学者の世界はなんと陰険なことかと感嘆しきり、はじめて読んだも同然である。少々断片的に憶えていたとしても、経年によってこちらの感受性も大きく変わっているから、ほとんど新規の小説である。考えようによっては、これほど有り難いことはない。もう一度、たっぷり清張ワールドに浸ることができるのだから。
もうひとつは、同じ根っこから次々と作品が派生しているらしいこと、「地方紙」というテーマで検索すれば、「地方紙を買う女」「空白の意匠」「山」とか次々と出てきそうである。おそらく執筆することによって、アイデアが連想ゲームみたいに続々派生していったのだろう。書いて書いて書きまくるいっぽうで、作品のアイデアもどんどん溜まりこんできて、時間がいくらあっても足りない時期があったにちがいない。まさに小説家として至福の時期だったろうな。

◆清張爆笑ワールド
現役バリバリ当時は社会派推理小説の巨匠的存在であった。それまでの本格推理小説と違って、我々とそう変わらない等身大の人間がなにげない日常のなかで落ち込む陥穽を描く、いってみればリアル・ミステリの旗手だと、そう思いこんでいた。
ところがいま読み返してみるとそうでもないのである。こんなひとそんなにいないよなという突飛な人間たちがまき起こすファース、どうみても人間喜劇にみえてしまう。そういうはなしが多い。
それまでのいわゆる本格モノと称される推理小説が、神の如き名探偵とかおどろおどろしい装飾だらけで現実離れしてしまった反動から、清張が社会派ミステリの代表格にみなされたのかもしれない、しかしあらためて読み直してみると清張の小説世界も十分突飛なのである。いま現在のミステリ小説のほうがよほどリアルであって、清張作品では探偵役も犯人も被害者もみな手の込んだことをしたがる一癖も二癖もある人間ばかりである。もちろん、だからこそオモシロイのである。

「支払いすぎた縁談」 娘の縁談を巡るいわゆるコン・ゲーム、いまでも「三高願望」とかあるそうだが、当事者父娘の貪婪さはもう爆笑ものであって、被害者なんだけど可哀想な気が全くしないというか。
「式場の微笑」 成人式の日に晴れ着姿のオンナのコが勢いのおもむくまま、ついカレとホテルに行っちゃって……、あとの着付けがさあたいへん、出張着付けサービスが大繁盛というのはきわめて今日的なはなしと思うかもしれないが、なんと30年も前の発表なのである。昭和50年当時の成人といえば、いまやもう50歳、そうか「いまどきの若いもんは……なんて」、なかなかいえないよなあ、なにせ、その先駆者なんだから(笑)。
これは本編も面白いが、宮部みゆきさんの前口上(解説)も秀逸で心にしみる。

◆清張純愛ワールド
清張といえば、男女のどろどろした情念が得意といったイメージがあった(ワタシには)。なんというか、欲得でくっついた男女のみもふたもないはなしは描いても、ひたむきな男女のラヴ・ストーリーにはあまり縁がないと思いこんでいたのである。
ところが、いい齢になってから読んでみると、それが勘違いであったことに、ようやく気がつく。若いころは読みきれなかったのだろう。たとえば「張り込み」なんかは、警察小説の体裁をとっているものの、別角度からみれば立派な恋愛小説にもなる。
犯罪小説としての清張ミステリは経年劣化するかもしれない(たとえば、「砂の器」の殺害方法なんかは奇抜すぎてほとんど笑ってしまうほどだ)。だけど、人間心理の深奥とくに男女間の愛情の機微や親子とくに母親と息子の情愛などを描いた部分は、いつまでも色褪せることがない、むしろこっちのほうが清張ワールドの真髄かもしれない。

「遠くからの声」 相手のことが好きだからこそ意識的に離れていく、もうとことんクラシックなプラトニック・ラヴ・ストーリー、今どきそんなことあるもんかいと思いそうだが、それにしても心にしみるのである。
「火の記憶」 小説のテーマとなった男女の出来事も印象深いが、その娘夫婦の愛情の機微にしみじみさせられる。そしてこれ以上ないというほど、さわやかな終わり方に感服。
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by chaotzu | 2005-10-16 22:36 | 読書


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