2005年 10月 20日

【DVD】 「霧の旗」 粘着娘の逆恨み復讐譚

◆倍賞千恵子といえば、「寅さん」シリーズのさくら役によって、愚兄思いの賢妹イメージがすっかり定着してしまった、いわば清純派庶民女優の代表格。本来はもっと幅広い役柄が演じられる女優さんだったはず、だけど、あまりにもさくらのイメージと一体化しすぎてしまった。そう思われてならない。この点、浅丘ルリ子が演じたリリーさんは実にもうけ役であったという気がせぬでもない、まあそれはまた別のはなし。
さて、その倍賞千恵子が寅さん以前に出演した映画で、珍しくも悪女風の役を演じている。
熊本弁丸出しのダサい娘が、兄貴の「復讐」のために上京、クラブのホステス勤めで雌伏の後、最後は自らの肉体を武器に弁護士に仕返しする。
正直云って、ちょっとやりすぎやがな~と思ってしまうほどの異色作だ。

b0036803_222788.jpg◆1965年松竹映画、モノクロ。松本清張の原作に橋本忍の脚本、そして山田洋次の監督となれば一般的には豪華作。そして倍賞千恵子と近藤洋介の演じた役が後年モモエちゃんと三浦友和のコンビで再現されるなど、テレビも含めて再三リメイクされている。いわゆる人気原作の扱いであるが、はっきり云って清張作品としてはそんなに筋がいいとは思えない。新しいタイプの女性像を創造したいという意気込みがあったのだろうが、はなしが極端すぎて破綻していてはどうにもならない。映画としても失敗作ではなかろうか。自分としてははっきりそう思う。

◆冒頭、熊本から国鉄の夜行列車を乗り継いで上京する倍賞千恵子、硬い4人掛けのボックス席に窮屈に座ったままで延々長時間を過ごす。今ならば飛行機でひと飛びであるが、ムカシの高千穂号とか西海号とか夜行の急行による移動はたいへんだった。その辺の上京苦労を厭わない妹の必死の気持ちをあらわしている。だけど、急に押しかけられた弁護士もたまったもんではない。お金はないけどぜひ弁護してくれという。熊本まで出張してほしいという。おそらくどこの事務所でもお引取り願いたい訪問客だろう。そして弁護を断られたあげく逆恨みに至る。ちょっとはなしが飛躍しすぎなのである。
本来であれば、罪を逃れた真犯人を恨むべきなのに、冷たい対応をしたからといって事件に関係のない弁護士をネチネチともてあそぶ。真犯人の見当もだいたいつくのであるが、それは放置したままになってしまう。滝沢修演じる弁護士はけっして、悪徳といわれるほどじゃない。なんだか気の毒にみえるほどである。

ちと清張の原作に拘泥しすぎたように思う。後年の「砂の器」のように映画ならではの思い切った改変をしておれば、また別の作品に仕上がったかもしれない。
あっそうか、「砂の器」は橋本忍と山田洋次による清張作品への再チャレンジだったかもしれないな。敗者復活戦みたいなもんである。

◆それにしても滝沢修の演技の達者さにはびっくりする。はじめ尊大な弁護士がしまいに涙まじりの声まで出して、倍賞千恵子に土下座哀願する、その迫真さ! 同一俳優とは思えぬほどの見事さである。
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by chaotzu | 2005-10-20 22:27 | 日本映画


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