2005年 10月 29日
◆俳優の高橋英樹といえば、テレビ時代劇の印象が強いが、もとは日活青春映画でデビューしたはずだ。吉永小百合と浜田光夫、和泉雅子と高橋英樹といったコンビで売り出したのではなかったか。いや、旧いはなしはもうやめておこう、とにかく自分的には、映画俳優としてもうひとつ中途半端なイメージがあったということだ。ところがあったんですなあ、高橋英樹の映画代表作、なぜこれまでみなかったのだろう。 ◆1966年日活映画、モノクロ。カトリックでありながらバンカラ「正当硬派」を気取る旧制中学の名物男を高橋英樹が演じる。時代は昭和10年ごろ、どんどん軍国主義に傾斜していく世相下、女性に憧れて悶悶とするその純情をもっぱら喧嘩で発散する南部麒六(高橋英樹)の青春物語。 喧嘩師範の先輩を川津祐介、下宿先の娘でかつキロクのマドンナを浅野順子が演じる。高橋英樹の岡山弁もまたご愛嬌である。 なお、余計なことを承知で云うと、このアト、浅野順子はずっと年上の大橋巨泉と結婚する、それだけはしっかりと憶えている(泣)。 ◆「喧嘩キロク」、先輩スッポンの喧嘩奥義伝授にしたがって、またたきすることなく鏡とにらめっこしたり、ぶらさげた小豆袋を朝晩千回叩いたり、はたまた胆力修練でそっくり返って町中を歩いたりと喧嘩道を究めるのに懸命である。はたからみると滑稽そのもの。 下宿のおかみさんが “勉強のほうもあれぐらいしたら、たいした偉口になるのになあ”と云っている。 実際のところ、本人は下宿の娘道子さんが気になってならない。日ごろの行動と逆に日記はもっぱら軟派一直線である(笑)。 “ああ俺はジャンヌダークの忠実な部下となって、彼女の足許にひざまづきたい” “道子さん、ああおねえさま…… 貴女の瞳はなにゆえ清らかなのでしょう” “みち子さんみち子さん、ああみち子さん、僕は自涜しません。ただ喧嘩で発散するんです” ◆岡山第二中ではオスムス団(オカヤマ・セカンド・ミドル・スクール)に入って、団長のタクワン一派と果し合いになったり、副団長になって風俗規定をつくったりと、みかけは硬派一途の青春だ。 「メッチェンのケツなど追いかけ回すのは下夫の仕業と知るべし」、ええホンマかいな(笑)。 しかし軍事教練の教官(佐野浅夫)に口ごたえしたことから、睨まれてしまう。 “鳥の一羽ぐらい背中に飛ばしたかて、えろうたいそうに喚かんでも” 裸足の足裏に画鋲をいっぱい踏みつけてまでの抵抗である。 やむなく会津の喜多方中学に転校、ところが、ここでも会津中学の「昭和白虎隊」と集団果し合いになってしまう。傑作なのは喜多方中の校長先生が会津中に勝ったということで、ご機嫌になることである。 “校長!良志久(らしく)ありませんぞ” “人生には後で考えればバカバカしいと思うが、その時には命を張ってやることがある、それが男だ、学生よりもまず男だぁ” 校長先生、いいこというなあ。忘れていたが脚本は新藤兼人である。 ◆さて、いよいよ戦時色を強めていく世の中、東京では大事件が起きる、憧れの道子さんの運命はいかに。そして麒六は東京へ旅立っていく。 とにかくただのワルガキ不良映画じゃない。今の時代ならば凡そ考えられないような純愛映画である。そして、とても清順映画にはみえない面白さがある(汗)。 1970年代のヒット漫画「柔侠伝」(バロン吉元)を連想する。この映画の影響を間違いなく受けているなと思った。 ♪ひとつ、けんかは眼のつけ ふたつ、けんかは肝っ玉 みっつ、けんかは腕の冴え よっつ、けんかは身のこなし いつつ、けんかは心意気、それ、こーころいーきー
by chaotzu
| 2005-10-29 22:56
| 日本映画
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