2005年 12月 10日
◆1968年日本映画(肉弾をつくる会&ATG)、岡本喜八監督による戦争映画であるが、政府や軍部の中枢を描いた「にっぽんの一番長い日」とちがって、無名底辺の兵隊と民衆をとりあげる。登場人物は全て名なしという徹底ぶりである。公開当時は新人大谷直子の全裸場面が話題になったが(そういうことだけはしっかりと憶えている)、メインテーマは学徒動員された21歳6ヵ月特攻兵の運命である。 しかし、岡本監督にかかれば単純な反戦映画にはならない、どこか喜劇調でもあり、また映像詩みたいな実験的作品にもなっている。要するに監督が束縛されず好き放題作った、そんな感じがする映画、見るひとによって好みは分かれるだろう。 ◆“日本良い国、清い国 世界にひとつの神の国” “日本良い国、強い国 世界に輝く偉い国” 子どもが無心に唱えているが、もはや戦争末期であり、沖縄も米軍に占領された、やがて原爆も落とされる。それなのに、学徒動員された「あいつ」は本土上陸を想定した米軍戦車への肉弾攻撃要員としてしごかれている。制裁で全裸訓練の罰も受けたりもする。周りから “あいつのチン○コでっかいなあ”など云われたりするが、本人は “体じゅう顔にしておれば、風邪をひくひまなどない”と泰然としている。 ◆戦局悪化、とうとう人間魚雷にされてしまう、その前に一日だけ休暇が与えられる。 早速、古本屋にとび込むが、主人が笠智衆、空襲で両腕をなくしている。 “とにかく字が多い本ありますか?” “あるよ、電話帳はどうかな” “すぐに読み終わらず適当に面白い本がいいんですが” “それなら聖書はどうだろう” 聖書をもらうのと引き換えに古本屋主人の小便の介助もしたりする。生きていさえすれば、小便でも満足すると主人はひとくさり。どこかひょうきんな笠智衆である。その後登場する老妻(北林谷栄)があいつには聖母様にみえてならない。 次に出会うのが、因数分解の勉強をしている少女(大谷直子)、実は亡くなった両親に代わって女郎屋の経営もしている。少女に啓発されて、数式を念仏みたいに唱えるあいつ。 “勉強してなかったら生まれ変わったとき、わらじ虫か屁こき虫になるかもしれないなあ” “わらじ虫にはなりたくないなあ” う~ん、なんだかものすごいシュールな展開、どこかつげ義春のマンガにも似ているような。 ◆「人間魚雷」といっても魚雷にドラム缶をしぱりつけただけである。女郎屋の傘をさして、体を起こしたままで遠州灘を漂流すること10日間、とうとう前方に米国空母発見!と思いきや、なんと汚わい船だった。そして、ラストは強烈なオチのおまけつきである。 あいつを演じた寺田農、一世一代の……やっぱり「怪作」かなあ(迷)。
by chaotzu
| 2005-12-10 21:22
| 日本映画
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