2005年 12月 15日

【マンガ】こうの史代「夕凪の街桜の国」この世におってもええんじゃろか

◆かねて評判の高さを伝え聞いていたのであるが、ずっと書店で見当たらなかった作品、それをようやく入手する。A5版、それほど分厚くない。連作短編が3作品収録されており、うち2作は週刊漫画アクションに掲載されたもの、残り1作は書き下ろしである。それにしても漫画アクションはときどき思いもよらぬ名作を載せる、なかなか油断ならないマンガ誌である。
b0036803_20241699.jpg閑話休題、テーマは原爆、ヒロシマのピカドン(1945年)から現在(2004年)まで60年間弱、原爆の災禍に遭った平野一家の生き残りとその次世代を描く長い物語である。舞台も広島相生通り(原爆スラム)から東京は西武新宿線沿線(新井薬師前~田無)に展開する。
原爆マンガとして名高い「はだしのゲン」とは異なり、説明を切り詰めた抑制のきいた描写は、再読するほどに胸に染み入るものがある、はっきり云って「はだしのゲン」以上。そして、つくづく人間は過去の歴史とは無縁でいられない存在なんだと思い知る。

◆作者のこうの史代は広島生まれであるが、1968年生まれ、だから原爆体験どころか昭和30年代の記憶すら無縁の世代である。それでも、被爆者等のはなしを聞き資料を渉猟してこれだけの物語を紡ぐ、創作者のイマジネーションたるや大したものであるが、あるいはヒロシマそしてナガサキ原爆の20万人を超える犠牲者や原爆症で亡くなった人々の魂が後押ししたのかもしれない。そう思わせる作品である。
作者のあとがきに曰く
「原爆も戦争も経験しなくとも、それぞれの土地のそれぞれの時代の言葉で、平和について考え、伝えていかねばならない筈でした」

◆「夕凪の街」
物語は1955(昭和30)年の広島、建築設計事務所?の事務員である平野皆美(23歳)は夏でも長袖のワンピースを着込み、同僚からおにぎりを包む竹皮を集めたりしている。そして土道になるといきなり靴を脱ぎだして裸足で歩きだす……という意表をつく発端。
そして、あまりにもの哀しいラスト、
“10年経ったけど、原爆を落とした人はわたしを見て「やった!またひとり殺せた」とちゃんと思うてくれとる?”

◆「桜の国」(1)
32年後、昭和1987(昭和62)年の東京、主役は平野皆美の姪である石川七波(11歳)、あだ名はゴエモン、野球大好き少女。母はおらず祖母と会社員の父親そして弟と中野区の団地住まいである。野球の練習をさぼって友達といっしょに喘息で入院中の弟の見舞いにいく、そして病室で桜吹雪をとばして叱られる。そんなワンパク少女の春から夏にかけての思い出が描かれる。

◆「桜の国」(2)
さらに17年経つて平成の現在に至る。石川七波も28歳のOL、ひ弱かった弟も研修医になっている。物語の実質的な主役はこれまで顔をみせなかった七波の父親。定年退職した父親の挙動がこの頃どうもおかしい、七波はばったり出会った旧友といっしょに、父親のアトをおいかける。父親の行き先は広島だった……。

◆三話あわせてひとつの物語ともとれる。成就しなかった恋愛、成就したものの途絶してしまう恋愛、そして成就するかもしれない恋愛、この三つの恋愛が描かれる。そのいずれも原爆が影を落としている。願わくば、最後の物語が成就しますようにと思わずにいられない。
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by chaotzu | 2005-12-15 20:39 | 読書


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