マイ・ラスト・ソング

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2005年 12月 20日

【DVD】「この世の外へ クラブ進駐軍」 エンタツでアチャコじゃないか

◆小林信彦の「テレビの黄金時代」を読むと、進駐軍のクラブ回り経験があるバンドマンが戦後日本の芸能界を牽引していったことがよく分かる。日本テレビの名物ディレクターであった井原高忠、渡辺プロ社長の渡辺晋、ホリプロ社長の堀威夫、さらにはフランキー堺にクレージー・キャッツ……。
終戦後、いの一番にアメリカン・ポップ・カルチャーの雰囲気に接した人間が、そのまま日本のテレビ黎明期にかかわっていく、といってもはじめのお手本はみんなアメリカである。「シャボン玉ホリデー」しかり「ザ・ヒットパレード」しかり。最初はアメリカのポップソングを日本語にして唄うだけ。はっきり云って猿真似みたいなもんだから、子供のアタマでもなんだか面白くなかった。
だけどアトになって分かるのだが、実際に進駐軍のキャンプ回りをした人には複雑な気持ちもあったんだろうなと。実入りはいいかもしれないが、ついこないだまでの敵国「鬼畜米英」相手の商売である。戦勝国の横暴に腹立つこともあっただろうし、同胞のみる目もある。なにより、音楽センスの立ち遅れに歯噛みしたことだろう。しかしそういった悔しさを土壌にして、今のJポップが育っていったのかなんてことも思ったりする。

b0036803_2202330.jpg◆2004年日本映画(松竹ほか)、阪本順治監督のオリジナル脚本による終戦直後の日本人と進駐軍兵士の群像劇である。
終戦を知らないままフィリピン戦線で死線を彷徨っていた広岡(萩原聖人)は、上空の飛行機から流れてきたジャズでやっと戦争の終結を実感する。楽器店の息子で軍楽隊ではサックスを吹いていた、さあやっと音楽が出来るぞ。引揚後、早速バンドを結成する、バンド名はラッキー・ストライカーズ!ところが、メンバーがみんな戦争の影やトラウマをひきずっている。
ベーシスト(松岡俊介)は、教師の兄貴が戦中の軍国主義教育の反動で共産党員になり、家は四六時中公安警察に監視されている。ピアニスト(村上淳)は浮浪児になった実の弟をずっと探している。神戸出身のトランペッター(MITCH)はヒロポン中毒、さらにドラマー(オダギリ・ジョー)は長崎で被爆した母と妹を抱えているといったぐあい、ラッキー・ストライカーズとはよくいったものだ(苦笑)。

◆戦勝国側である進駐軍兵士にも戦争の傷跡は残っている。基地慰安クラブの責任者である軍曹(ピーター・ムラン)は弟のダニーを戦争で亡くした。だから「ダニー・ボーイ」だけは演奏させない。沖縄戦線で日本兵を殺した記憶にうなされるサックス奏者上がりの兵士(シェー・ウィガム)もいる。さらに人種間の反目もあって、朝鮮戦争の勃発によって、黒人兵のなかには先に戦場に動員されるのかという怨嗟がたちこめている。

◆オダギリ・ジョーがコミカルな三枚目を演じる。哀川翔のニセ日系二世とともに、暗くなりがちなムードを救っている。
もともと太鼓経験しかないのに金欲しさでバンドに潜り込んだにせドラマーである。スティックのことを「ばち」と呼んだりするので、たちまちモロバレ(笑)。そんな彼がバンド仲間のケンカに絶叫する。
“いまはケンカよりジャズだろ、ヒロポンよりジャズだろ、GHQよりジャズだろ、六大学野球よりジャズだろ、羽黒山よりジャズだろ、バーグマンよりジャズだろ”
“いまのオレたち、ラッキーでストライクじゃないか、ハッピーでプリーズじゃないか、ワンダフルでビーチフルじゃないか、エンタツでアチャコじゃないか”
云ってることはもう支離滅裂ながら、実に真摯な思いがよく伝わるのである(笑)。

◆トランペットのMITCHを除き、出演者は楽器が素人のはずである、実際に俳優が音も出したのかはよく分からない。萩原聖人のボーカルがご愛嬌である、ほとんど笑わず無表情なのも、また役柄にあっている。
難をいうと、はなしが出来すぎていること、そしてエピソードが多すぎて焦点がぼやけた感があること。結局、戦争のトラウマを癒すのは音楽ということなんだろうが、それじゃ当たり前すぎるような、まあそこそこ愉しめる作品ではありますが。
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by chaotzu | 2005-12-20 22:08 | 日本映画


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