2006年 01月 24日

【DVD】「天城越え」 ♪山が燃える、じゃなくて少年は萌える

◆俳優の渡瀬恒彦、渡哲也の実弟であるが最近あまりみなくなった。この人も味のあるなかなかいい俳優さんである。かつて桃井かおりと共演した「神様がくれた赤ん坊」などは忘れ難い。兄貴のほうは再三の病魔を克服して、なお第一線でバリバリ活躍しているというのにいったいどうしたんだろうか。そんな渡瀬恒彦に久々対面する。

b0036803_22365410.jpg◆1983年松竹映画(霧プロと共同制作)、松本清張の同名短編小説が原作である。冒頭、渡瀬恒彦が杖突いたよたよたの老人として登場する。ただし、鳥打帽にサングラスおまけにマスクまでしているから、誰だかサッパリ分からない。静岡市内のとあるビルの階段をハアハア上って、印刷屋を訪れ、ある資料の印刷を依頼する。かつて迷宮入りになった戦時中の殺人事件に関する刑事調書である。しかし、いくらはるか昔の時効入り事件とはいえ、こんなことしていいんだろうか。いまだったら、情報漏えいでたいへんなことになりはしないか(苦笑)。

◆先を云ってしまうと、印刷屋の経営者(平幹二朗)が真犯人なのである。渡瀬恒彦の元刑事、執念深いといえどもう犯人を罰する意思はない、ただ、動機がよく分からない、それを知りたい一心で奇抜なアプローチに及んだのである。果たして平幹二朗は激しく動揺する。いまや「けものみち」のヌルヌルした気色悪い老人が板についたヒラミキにも純情な時代はあった(笑)。回想がはじまる。あれは戦争中、まだ14歳のときだった。
ここから物語がタイムスリップする。石川さゆり唄う名曲ではないがもうひとつの「天城越え」である。こちらは、思春期の少年と若い女との切ない交情(情交じゃないよ、念のため)のはなしだ。

◆伊豆半島の南、下田の鍛冶屋の倅14歳少年が、母親の情事にショックを受けて、家を飛び出してしまう。ゴム底草履で天城越えの旅だ。途中、坂上二郎の菓子屋や柄本明の呉服屋などの行商人と同行したりするが、夜も更けてきて心もとなくなり、修善寺の手前で引き返す決心をする。そして湯ヶ島温泉の遊郭を足抜けした若い娼婦(田中裕子)に出会う。足裏のマメが破れて血だらけになった少年は、女から手当てしてもらう。まるで観音様みたいだ、そんな女がよりによって……。
映画で描かれる天城街道は美しい、浄蓮の滝や天城トンネル、思わず夏場のハイキングに行ってみたいなあ、いいだろうなあと思わせる、そんな景色とはうらはらに、ドラマのなかでは思春期の少年のもやもやした揺れ動く心理が展開する。もうやるせない映画。

◆田中裕子が素晴らしい。警察署で尋問されるときのはすっぱな態度、便所に行かせてもらえず、刑事に突き飛ばされて、漏らしてしまうときの半泣きの顔。もともと、はじめから主演級扱いの女優ではなかったので、吉永小百合クラスならば絶対しないであろう役柄でも演じる根性がこのひとにはある。
そして護送されるときに少年と再会して全てを覚る、“あんたのことは絶対云わないよ”と無言の演技。ここが胸にしみいるいちばんの見どころシーン。少年を演じた伊藤洋一もなかなかの適役でありました。
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by chaotzu | 2006-01-24 23:50 | 日本映画


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