2006年 01月 26日

【DVD】 「拝啓天皇陛下様」 陛下、最後の赤子が戦死しました

◆ともすれば、昭和の戦前が全て軍部圧制下の暗黒時代であったかのごとく錯覚しそうであるが、実際はそれほどでもない。軍部もしょっちゅう戦争を仕掛けていたわけではないし、大正デモクラシーの余韻をひきついで、モボにモガそしてエログロナンセンスが大流行りのときもあった。江戸川乱歩なんかがモノスゴイ猟奇小説を書いていた時代である。
個人的な見方であるが、小林多喜二が特高警察に虐殺された1933年(昭和8年)あたりまで、大雑把にいって日本国内は平穏な時代だったのではなかろうか。だから、その時分の軍隊(除く外地)にはまだのどかな雰囲気があったかもしれない。
~なんてことを書いてみたが、もともと明確にそう意識していたわけではない。白状すれば、映画をみてああそうであったかと認識し直した次第なんである(汗)。

◆1963年松竹映画、原作は棟田博(今やほとんど忘れさられている)、監督脚本は野村芳太郎、そして渥美清が俳優としてはじめて評価をあげた作品である。今見れば、後年の寅さんのルーツにもなっている。渥美演じる主人公の山田正助こと山ショウは天涯孤独の前科もので無学無教養、人のいいオトコでインテリへの憧れもある。だけど何をしでかすか分からない不気味さもある。そして女性との付きあいがへたくそ……、
なんだ寅さんとほとんどオンナジじゃないか。

b0036803_2143886.jpg◆1931(昭和6)年、徴兵で岡山の連隊に入営した初年兵の3人組、渥美清と長門裕之と桂小金治、先輩兵と和気あいあいだったのは初日だけで、翌日から二年兵(西村晃)が鬼みたいになる。とはいっても、その二年兵も満期除隊が近づくにつれ、一年兵に媚をうるようになってくるところが大いに笑わせる。渥美清たちも二年兵になれば天国だ、飯も山盛りいっぱいたらふく食べられる。中隊長(加藤嘉)もうっとうしいぐらい優しい、営倉に入れば黙って正座を付きあってくれるし、読み書きを勉強する段取りもつけてくれる。軍隊に入ればみんな天皇陛下の赤子で平等だ。せちがらい娑婆と比べりゃ天国じゃないか。これは、おそれおおくも天皇陛下様のご慈悲なんだろう。
だから、南京陥落(1937年)で戦争終結の噂が流れたときは大慌てする、思い余って崇拝する天皇陛下様あて手紙で直訴しようとする。「どうか軍隊においてください」、さすがに長門裕之に「不敬罪になるぞ」と制止される。

◆ただし、軍隊時代は映画の半分ぐらいしかない。後半は主人公の戦後苦闘編である。もともと立ち回りが上手な器用人間ではない。カツギ屋になったり、信州の開拓団に入ったり職を転々とする。想いをかけていた未亡人(高千穂ちづる)にもすげなく振られてしまう。そして、やっと嫁さんになってくれる女性(中村メイコ)にめぐりあうのだが……。天皇陛下の赤子であり続けた男の悲しい一生である。

◆喜劇的なところもあるが、全体は幸福に恵まれたとはいえない男の一生であって悲劇である。また、天皇制批判なのかあるいはそうでないのか、そこのところは巧みにぼやかしている。とはいえみるひとが見ればはっきりしているだろう。
今現在、こんな直截的なテーマで映画制作できるひとはまずいないだろうことはたしか。それほど、世の中の空気がおかしくなっている。昭和天皇が亡くなる時期の「自粛」騒動は異常であったが、それがまかり通ってしまった。皮肉なことに、いま現在そんな風潮の防波堤になっているのは今上天皇である。
[PR]

by chaotzu | 2006-01-26 21:45 | 日本映画


<< ボキャ貧総理      「改革親子」 >>