2005年 07月 22日
◆忠臣蔵好きのコイズミ首相、「南部坂雪の別れ」の場面ではいつも涙を流すそうである。 討ち入りの朝、決行意志を伝えるべく亡き主君の妻瑤泉院を訪れた大石内蔵助、間者の気配を察して「仇討ちはあきらめた」と取り繕わざるを得ない。瑤泉院の面罵に耐えて、一礼して立ち去る内蔵助、瑤泉院をバカ女扱いにしているものの、いちおう忠臣蔵屈指の名場面だ(もちろん実話ではなく仮名手本忠臣蔵の創作である)。 一国の首相が「時と場合によってはウソも美化される」と思い込んでいるのも困りものであるが、かくほどさように、日本人にとって至高究極のエンタメ・コンテンツが忠臣蔵。突っ込みどころも多いが、これを超えるものはまだ生れていない。 その忠臣蔵を武士の世界からサラリーマン社会におきかえてつくったらどうなるか、東宝オールスター出演の「サラリーマン忠臣蔵」、これが思いのほか、忠実にリメイクしている。 ◆1960、1961年東宝映画、正続2本あるが、実際は前後ものである。お遊び企画みたいなもんだが、これがわりと面白い。最後はめでたく大願成就するし、悪玉は倒れ、サラリーマン義士は切腹(退職)することもなく万々歳。マンネリ感がたまらないというか、まことにキラーコンテンツおそるべしである。 基本設定は、幕府=丸菱コンツェルン総本社、吉良家=丸菱銀行、赤穂藩=赤穂産業。 そして、松の廊下(ロビー)事件はいうにおよばず、止め男の梶川与惣兵衛=角川本藏、お軽・勘平=軽子と寛平、不忠義の大野九郎兵衛=大野久兵衛、斧定九郎=大野定五郎……など、討ち入りにいたるまでのサイド・ストーリーも、ちゃんとカバーしている。一力茶屋がクラブ「イッチー・リッキー」なんてもう笑ってしまう。もちろん、冒頭の南部坂雪の別れに相当する場面もちゃんとある。そして、12月14日は株主総会へ討ち入りになる。会場は本所松阪会館。脚本家もこういうのって愉しいだろうなと思う。 まあ直前まで株式を買い集めていたのが、株主名簿にのるのかな、なんて詮索は野暮というもの。「山」「川」の合図で総会決戦だ。これで面白くなけりゃ、そりゃおかしいのである。 ◆松のロビー事件のとき、森繁専務は2週間のヨーロッパ出張であったが、出張前の1週間は連日の壮行会である、いまと大違い、おまけにお付きの小林運転手も待機中にビールを呑んでいる。“なーに、ビールの1杯や2杯、へっちゃらですよ” まさに隔世の感だが、30年ぐらい前まで、飲酒運転が常態化していたことはたしか。亡くなった親父もよく酒呑んで運転していたが、子供心に怖かったことを思い出したりする。 ◆俳優メモ ・東野英治郎:吉良剛の介、なんと銀行頭取から赤穂産業社長に転進する。そりゃ格下げだということはさておき、もう分かりやすい悪役演技である。しかし、この人はうらぶれたペーソスのある役柄のほうがいいな。吉良は山茶花究でどうだったんだろう。 ・三橋達也:不忠義有島常務の不肖の息子、大野定五郎。おねえコトバの珍妙な役、二枚目のこの人がこんなけったいな役をやるとはびっくり、だけどそれがさまになっているので、二重びっくり。 ・小林桂樹:森繁専務の運転手寺岡平太郎、司葉子演じる軽子(すごい名前だ)の兄貴である。続編はなんと社長秘書で活躍する。大食漢で食ってばかり、おまけに味オンチ。タクアンに醤油をかけて、なんでも味の素には、さすがの森繁も呆れかえっている。 ・左卜全:天野化学社長の天野義平。森繁の起こした大石商事を助ける。 “天野義平はオトコでござるう~、ワッハハハ” いよっ、待ってました。 ・三船敏郎:若狭金属社長桃井和馬、亡き浅野社長の盟友で大石商事のスポンサー。 いわば、東宝オールスターの学芸会映画であって、みんな肩の力を抜いて芝居している。だから、このひとの浮いていること(笑)。たとえ学芸会であれ大真面目、いつも全力投球の濃い芝居である。しかし、今となれば、それも立派なみどころのうちなのである。
by chaotzu
| 2005-07-22 23:50
| 日本映画
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