2005年 07月 23日
◆小林信彦の「おかしな男渥美清」によると、伴淳の渥美清に対する嫌がらせはひどかったらしい。小沢昭一の証言「その場に居たたまれないですよ」まであるから実際そうなんだろう。渥美清が伴淳のポスターを指さして「悪人、悪人!」と叫ぶシーンなどいろいろとエビソードが書かれている。 このはなし、大ベテランの伴淳が露骨に嫉妬するぐらい渥美清の才能がきらめいていたということなんだろうが、それにしても、このふたり、松竹映画でけっこう共演しているのである。すると、映画のなかでは仲良くやっていても、実際はキリキリするような緊張感のなかで切った張ったをやっていたのか、まさに喜劇人の果し合いである。そんな渥美清と伴淳の共演映画をみる。 ◆1969年松竹映画、 ちょうど「フーテンの寅」で大ブレイクする直前の出演作。オープニングで北九州市の若戸大橋が出てくる。北九州市の若松が舞台でかつての北九州港(洞海湾)や若戸渡船の様子が写される。 渥美清の役名は鬼殺しの松、こうなるとほとんど無法松の一生のパロデイである。 ところが、いまみると、無法松というよりは、フーテンの寅のほうが近い。そう、葛飾柴又にひょっこり帰ってくる以前、家出中の寅さんそのものである。 これは寅さんの助走時代そのものじゃなかろうか。 ◆冒頭から墓地にヒゲもジャの怪しげな男、関敬六の住職に名前を問われて、“なんだ”と応える。“なんだとはなんだ” “南田松次郎、なんだまつじろうだ” なんだ(苦笑) 以下、おきまりのドタバタばなしが続く、前半は人力車の車夫をやったりして、二代目無法松気取りであるが、それは途中で放棄してしまい、後半は寅さんシリーズの先取りのようなはなしになる。それにしてもいったい、この展開こそ“なんだ”である。巨匠野村芳次郎監督らしからぬいい加減さ。おまけに、マドンナ役(新人の中川加奈)の魅力もいまひとつである。セリフは棒読みだし、たいして可愛いとも思えない。部分的に面白いところはあるが、もうひとつまとまりがない。まあ寅さん前史にあたる、そんな映画と思えばいいかもしれない。 ◆岩下志麻が女医役で登場、似合わぬ北九州弁?を使っているところがおかしい。あと財津一郎が記者役で少し顔出しするが、前髪振り上げて強烈なインパクトの怪演ぶりである。
by chaotzu
| 2005-07-23 23:38
| 日本映画
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