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マイ・ラスト・ソング

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2005年 10月 17日

【DVD】「なつかしい風来坊」 有島一郎畢生の小市民演技

◆もう20年近い前に亡くなった俳優の有島一郎、加山雄三「若大将」の親父さん役がいちばん知られていたと思うが、自分的にはもうひとつつかみどころのない俳優だった。コミカルなようで小ズルイ、飄々として小心、乱暴にくくると、イッセー尾形の前世代バージョンのような役者さん。もっとも生の舞台をみたわけでないし、映画もそれほどみているわけじゃない、まあそんな自分なりの思い込みがあったのである。
ところがなんのなんの、あるんですな、そんな脇役一筋の俳優さんが主役として輝いた映画が。
ラストの目玉ウルウル演技には思わずもらい泣きしそうになりました。

【DVD】「なつかしい風来坊」 有島一郎畢生の小市民演技_b0036803_2241338.jpg◆1966年松竹映画、一般的には山田洋次=ハナ肇コンビによる寅さん前史的な映画という位置付けである。事実そういった先入観をもってみたのであるが、実際にみると助演の有島一郎の存在感が大きいこと、主役級といってもいいぐらいだ。ハナ肇がばっとしないということではない。有島一郎の真価(あるいはその一部)が発揮されたのだろう。
職場でも家庭でもうだつのあがらないまま、人生の後半にさしかかった小市民、はたして彼に救いの瞬間はくるのだろうか。


◆厚生省?の技官(医師)で課長補佐の有島一郎、職場では「つつが虫」と陰口されるほど、さえない窓際小心男、出世の見込みもほとんどない。唯一仲の良かった同僚「さなだ虫」が福岡の国立病院に転勤となり、役人人生もさびしい晩年にさしかかっている。ところがひょんなことから流れ者の労務者(ハナ肇)と知りあう、そして無教養だが気の優しいハナ肇が何かと有島「小市民」家庭を活性化してくれるのである。男の子には薬殺寸前のボクサー犬をもらってきてやり、家中の修理仕事から大きな庭石の搬入まで引き受ける、そしてとうとう茅ヶ崎の海岸で自殺を図った女性(倍賞千恵子)まで連れてくる。旦那を軽んじていた奥さん(中北千枝子)の評判も上々だ。有島一郎の平板無為かつ潤いのなかった人生が俄然活気づいてくる。職場でも「この頃つつが虫変わったね」と云われるほどになる。

◆成り行きというか、ハナ肇が倍賞千恵子に惚れてしまう。それを知った有島一郎がハナを大いに督励する。「デートは映画がいい」「ぐっと抱きしめるのだ」と熱心なアドバイスをする。ところがこれがみんな裏目になってしまうのだ。
ここから先はもう悪い目の一途である。一時はあった家庭での権威もたちまち失墜、おまけに職場では八戸への転勤を申し渡される。家族はダレもついてこない、単身赴任で行ってくれという。なんとさびしいものよとがっくり肩を落とすお父さん、とぼとぼ二等列車で赴任先に向かう有島一郎、ところが思わぬ遭遇が待っていた。ラストは賛否両論かもしれません。

◆おまけ
実際のところ、医師の資格があって厚生省の課長補佐となれば、モノスゴい権力者だろうと思う、そのことは薬害エイズ事件を想起すれば十分だろう。左遷とされる転勤先も八戸の検疫所長である。だから、いくら官僚の落ちこぼれといっても、とても小市民レベルじゃなかろうという突っ込みはある。もうちょっとその辺の設定は考えてほしかったところ、まあそこは目をつぶる(苦笑)。
だけど、gooの映画案内(あらすじ紹介)では課長という設定である。gooの解説はこの他にもマチガイだらけで、もうひとつ信頼がおけない。なにも本作品に限ったことではなくて、目茶苦茶状態といってもいいぐらい。よほど安い単価で外注したのだろうか。
閑話休題、有島一郎の奥さん役を演じた中北千枝子が先月亡くなられた。映画中では亭主を軽くみる無神経な妻を見事に演じていたが、黒沢明の「素晴らしき日曜日」など、記憶に残る女優さんであった、合掌。

by chaotzu | 2005-10-17 22:51 | 日本映画


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